ロジャー・フェデラー(スイス)の微笑みには理由があるのだろうか。
大会の序盤ではナイトマッチに組まれることがほとんどのフェデラーが、大会の終わりには昼間の試合となる状況にアジャストしていけるのかどうか、というのは、彼にとっては問題ではないようだ。
「僕らが早くも準決勝や決勝について話すなんて完璧な状況だね」とフェデラーは言う。「去年はそんなことがなかったからね」。
去年は彼の記録的なキャリアが終わるのかどうか、という疑問の方が激しく交わされていた。ウィンブルドンでは2回戦で敗退し、全米オープンでも傷めていた背中のために苦戦し、シード順位は第7シードだった。
「去年は自分にもチャンスがあると言い聞かせようとしていたよ」と土曜日にフェデラーは話している。
「当時は僕がトップ5やトップ10の相手に勝てるかどうかというのをいつも感じていた」とフェデラーは言いながら、「それでも僕はトップ10より下でトップ30前後の相手には、少しばかりマージンを持っている感覚でいた」と続けている。
フェデラーの言うことは正しい。17度グランドスラムを制した彼は、4回戦で22位のトミー・ロブレド(スペイン)に敗れている。
「自信があっという間になくなったよ。しっかり動けなくなっていたからね」とフェデラー。「また違う故障をしたんじゃないかと思って怖かったんだ」。
そして彼はこう続けた。「それは今年ほどには明確で、シンプルなことじゃなかったんだよ」。
今年の大会のフェデラーはアーサー・アッシュ・スタジアムの観客席に有名人たちが点在するのと同じくらい、ふたたびの躍進が期待されている。
ウィンブルドンの決勝ではノバク・ジョコビッチ(セルビア)と手に汗握る5セットマッチを戦ったフェデラー。トロントでも決勝に進出し、シンシナティでは優勝した。今やフェデラーは、右手首の故障で欠場したラファエル・ナダル(スペイン)の2位の座にも迫っている。
フェデラーにとってはほとんど一方的にやられているナダルがいない今年の大会のドローは、彼には有利にも見える。
「彼(ナダル)が出ていないということを、僕がチャンスにできるかどうかというのは確かに大きいね」とフェデラーは言う。「倒すのが本当にたいへんな相手が一人いない、というのはたぶん確かなことだろうからね」。
フェデラーとジョコビッチは決勝まで対戦がない。フェデラーに対して16連敗中(0勝)のダビド・フェレール(スペイン)が準決勝で当たる可能性があるくらいだ。
フェデラーが18度目のグランドスラム優勝を成し遂げるにはおそらく、これ以上のチャンスはないというところだろう。
月曜日にスタートする全米オープンでは、アンディ・マレー(イギリス)、スタン・バブリンカ(スイス)、ビーナス・ウイリアムズ(アメリカ)、スローン・スティーブンス(アメリカ)がデイセッションを戦う予定になっている。マリア・シャラポワ(ロシア)とジョコビッチはアーサー・アッシュ・スタジアムのナイトセッションに組まれた。
ウィンブルドンで優勝した直後に結婚式を挙げたジョコビッチが、ふたたび自分のプレーを取り戻し、集中できているかどうかはわからない。
「とても感情的になっていた期間だったんだ」とジョコビッチは土曜日に話している。「コートにいても気持ちがフラットなままで、闘志を盛り上げることができなかったし、気持ちを完璧に整えられていなかった。でも、それも別に普通のことだと思うんだ。何しろいろいろと初めてのことばかりだったからね、そうだろ?」。
ジョコビッチはほかの選手たちにプライベートとプレーのバランスをどうとっているのかについて、アドバイスを受けたのだとも付け加えている。2度の結婚を経験したコーチのボリス・ベッカーにも、質問をぶつけたのだという。「彼は僕と似たような経験を、僕より1度多く経験している人だからね」とジョコビッチは話している。
フェデラーがグランドスラムの17勝目を挙げてから2年以上が過ぎている。2013年の終わりには、この数字はこれ以上増えないのではないかと思われていた。
だが、今季のフェデラーは彼のアイドルだったステファン・エドバーグをコーチに呼んだ。6度グランドスラムを制した経験を持つエドバーグは、フェデラーにもっと前に出る動きをするようにアドバイスした。ポイントをもっと素早く終わらせ、33歳の身体を消耗やケガから防ぐためには、それが必要だという意味だった。ウィンブルドン決勝でのフェデラーは、67度もネットプレーを仕掛けている。
「別に何か新しい試みというわけではないよ。この数年は誰も彼にそうした方がいいと言わなかっただけだ」とESPNで解説を務めるジョン・マッケンローは話す。「エドバーグはたぶん、今のフェデラーにとってはほかのコーチたちよりもずっと力になっているだろうと思うよ」。
エドバーグの指導は、フェデラーのパフォーマンスを年間を通じて助けてきた。
「トロントやシンシナティだけじゃない。(エドバーグと組んだ)最初の週から本当にいいテニスができていたと思う」とフェデラーは言う。「大会に勝つというのがどんな気分になるのかを思い出したよ。どうやったら負けるのかとか、自信を上げていくにはどうすればいいかなんてことは、ほとんど忘れていたね。勝ち出したら何もかもがシンプルに見えてきたんだ」。(C)AP
Photo:Roger Federer, from Switzerland, returns a volley to Gael Monfils, from France, during a match at the Western & Southern Open tennis tournament, Thursday, Aug. 14, 2014, in Mason, Ohio. (AP Photo/David Kohl)