大会6日目を迎えた全仏オープン(グランドスラム/クレー)。雲が多く、にわか雨が降る時間帯もあったものの、日差しもある一日で、初夏のパリらしい過ごしやすい天候の下での一日だった。
すでに第1、第2シードが敗退している女子シングルスだが、この日から始まった3回戦では第3シードのアグネツカ・ラドバンスカ(ポーランド)がアイラ・トムヤノビッチ(クロアチア)に4-6 4-6で敗れ、上位3シードが4回戦を待たずに消えた。全仏ではオープン化以降初で、大荒れの大会の様相となってきた。
しかし、試合内容で語れば、上位3人はメンタルやフィジカルなどそれぞれに内容は違うものの、その状態は明らかに悪く、敗退もやむなしという印象も強い。
ラドバンスカを破ったトムヤノビッチはクロアチア人だが、13歳からテニスのためにアメリカに転居。クリス・エバート・アカデミーで鍛えられた経歴を持つ選手だ。
クリス・エバートと言えば、70年代から80年代にかけて、マルチナ・ナブラチロワとともに一時代を築いたアメリカのレジェンド。感情を表に出していたナブラチロワとは対照的に、いっさい表情を崩さず、常に安定したメンタルを誇った彼女は「アイスドール」という異名で呼ばれ、全仏は7度制して「クレーの女王」とも呼ばれた。
トムヤノビッチにとってのエバートは「アメリカの母親」であり、「メンター」の役割も果たしてくれていると話している。コート上での落ち着き具合も、彼女自身の性格だけでなく、エバートの薫陶の影響も大きいのだという。
「上位の2シードが敗れていくのを見て、私たちも “いける” と感じている」と、トムヤノビッチは20歳前後の若手選手たちが束となっての活躍を見せている現状について話し、「シード選手たちが負けたとかは、実はあまり気にしていないわ。みんないいプレーをしているし、2回戦で32人の選手たちがコートを去っている。もちろん、他の選手たちのことをリスペクトしているけれど、怖れる気持ちもない。シード選手たちが敗れていくことが、私たちの世代がステップアップしていることなのかと言われれば、そうかもしれないわね」と続けている。
と、あくまでもクールなトムヤノビッチだが、実は大きな記者会見はこれが初体験だったそうで、記者会見に緊張しているように見えるがと問われて、「そうね」と表情を崩し、「今まで自分の目の前にこんなに照明が灯ったことはないわ」と笑顔を見せたあたりは、21歳になったばかりの若い選手らしいところだろう。
3回戦で「ウイリアムズ姉妹対決」と期待されていた今大会だが、姉ビーナスがアンナ・シュミドローバ(スロバキア)に敗れ、妹セレナはガルビネ・ムグルッサ(スペイン)に敗れたため実現しなかった。
殊勲の勝ち星を挙げた両者が7番コートで対決した3回戦は、セレナを破ったムグルッサが6-2 6-4で制して4回戦進出を果たした。
シュミドローバはビーナスを倒した得意の展開力でこの日もムグルッサを振り回したが、フラット系の正確なショットでセレナを倒したムグルッサが、息詰るラリーの応酬となった試合を制した。
子供時代からのアイドルで、最大の強敵だったセレナを倒したあと、気持ちを立て直すのが難しかったというムグルッサだが、「毎日ホテルに直帰しているし、コーチに携帯に触るなと言われたので、携帯もコーチに渡して部屋には置いていないの。まだ試合が続くから、集中を保つためにね」と、周囲も彼女の好調をキープするために相当の気を遣っている様子だ。
そしてムグルッサもまた、「若手の選手たちがみんないいプレーをしているわ。たぶん、今が変わり目なのよ」と話している。
他にもこの世代の活躍選手の先駆者となった第18シードのユージェニー・ブシャール(カナダ)もヨハンナ・ラーション(スウェーデン)を7-5 6-4で破って4回戦進出を果たしている。
もちろん、実績のある選手たちが総崩れというわけではなく、一昨年の優勝者でもあるマリア・シャラポワ(ロシア)はパウラ・オルマチェア(アルゼンチン)を6-0 6-0で完封。
2011年全米の優勝者であり、2010年には全仏で準優勝の実績を持つベテランの第19シード、サマンサ・ストーサー(オーストラリア)も今年の全豪で準優勝した第9シードのドミニカ・チブルコバ(スロバキア)を6-4 6-4で下し、2012年のベスト4以来の2週目進出へ王手をかけている。
上位勢が総崩れで一躍優勝候補筆頭として名前が上がっているシャラポワだが、4回戦も過去13勝2敗と対戦成績で圧倒しているストーサーが相手。しかし、彼女は「自分がこれで優勝候補と言われても、私としては最初から勝つつもりで大会に臨んでいるから」と特別気負った雰囲気を感じさせないのはさすがというところだろう。
オルマチェアを完封したシャラポワ
18歳のアメリカ女子として注目されていたテイラー・タウンゼント(アメリカ)だったが、この日はクレー巧者のカルラ・スアレス ナバロ(スペイン)に「クレーの洗礼」を浴びせられる形で2-6 2-6で敗れている。「相手のプレーは最初からとてもとてもとてもよかったし、強かったわ。私はまるで縄でしばられたみたいだった」とタウンゼントは振り返っている。
トムヤノビッチの言葉通り、それぞれがいいプレーをし、よりよかった方が勝っていくのが全仏。ドローを見ると確かに大荒れの展開ではあるが、こういう年の大会はたいてい、この辺りから新しいスターたちが、その名を残すような熱い試合が増えていく。明日以降も楽しみになってきた。
(TennisMagazine/ライター◎浅岡隆太)
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