「ウィンブルドン」(6月29日~7月12日/イギリス・ロンドン)は大会5日目にして、男女単複で日本勢が全員姿を消した。ダブルスで残っていたのがクルム伊達公子(エステティックTBC)と奈良くるみ(安藤証券)だったが、それぞれ対戦相手は第1シードと第2シードという強敵。結果は“順当”に終わった。
奈良/ローレン・デービス(アメリカ)組は第2シードのロシアペア、エカテリーナ・マカロワ/エレナ・ベスニナ組を相手に序盤は健闘。「思いきったプレーで楽しみたい」と言っていた通り、157cmと156cmの小さなペアが、2度のグランドスラム優勝を誇るビッグなペアを相手に、第1セットはブレーク先行でプレッシャーをかけた。しかし4-3から3ゲームを連取されてセットを奪われると、第2シードの本来の実力、コンビ経験がものを言う。第2セットは0-5まで突き放され、1ゲームを返すのがやっとだった。
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クルム伊達とフランチェスカ・スキアボーネ(イタリア)が挑んだのは、世界ナンバーワンペア、マルティナ・ヒンギス(スイス)/サーニャ・ミルザ(インド)組だ。ヒンギスとミルザがペアを組み始めたのは今年の3月だが、組むといきなりインディアンウェルズとマイアミのビッグタイトルを獲得。ともにダブルス巧者、プラス抜群の相性であっという間にナンバーワンペアに上り詰めた。
伊達/スキアボーネは完全に挑戦者の立場だったが、気迫が空回りした印象は否めない。それぞれミスが目立ち、バッティングする場面も。わずか44分。1ゲームをキープしたのがやっとだった。
気迫が空回りしているように見えたのは、試合開始までの経緯に関係があったのかもしれない。この試合、実はセンターコートに入る予定だった。より厳密に言えば、オーダー上は「17時以降」ということしか決まっておらず、これは、どのコートに入るかは「各コートの進行具合によって決める」という意味だ。
ただし、選手たちにはある程度の予定が伝えられている。「まず、ショーコートでしかやらないことは言われていましたけど、99%はセンターコートだと…」と伊達。何しろヒンギスは、このウィンブルドンで単複の優勝経験を持つ元女王。しかしそれだけではないだろう。元世界4位の伊達も過去に何度もセンターコートを沸かせており、44歳で現役を続ける特別な存在だ。26歳で引退した伊達の最後の対戦相手が、当時16歳で〈天才少女〉の名をほしいままにしていたヒンギスだったという因縁もある。こうしたドラマにウィンブルドンは敏感だ。
ところが、もともと3試合が予定されていたセンターコートはスピーディに試合が進行していたが、第3試合の女王セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)と地元イギリスのヘザー・ワトソンの3回戦が思いがけずファイナルセット7-5という大接戦に。ギリギリまで待ったというが、結局、舞台は12番コートになった。
伊達は、センターコートを望んでいたかという質問に肯定も否定もせず、「うーん、(どのコートに入るのか)はっきりさせてほしかったですね」とだけ答えた。本心だろうか。44歳の伊達にはいつまでも将来が残されているわけではない。しかし、これで終わりというわけでもないのだ。シングルスは200位以下に落ちた伊達だが、やる気は衰えていない。むしろ上向きだ。
「体の調子がいいというのが一番の要因。練習も楽しいですし。ITFでやれるところまでまたがんばってみる」
シングルスは予選で敗れ、ダブルスも満足な結果ではなかったが、まだ戦う意欲を確認した44歳のウィンブルドンだった。
(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)
※写真はダブルス敗戦後、お互いを労うクルム伊達公子とフランチェスカ・スキアボーネ