10月31日から予選がスタートした「橋本総業 全日本テニス選手権89th」(有明テニスの森)。本戦は11月2日~9日の日程で行われている。
男子シングルス準決勝は、第1シードの杉田祐一(三菱電機)が3-6 6-4 6-1で斉藤貴史(津幡町テニス協会)を下し、江原弘泰(日清紡ホールディングス)が6-2 6-7(5) 6-4で第2シードの内山靖崇(北日本物産)を倒して決勝進出を決めた。杉田と江原は国際大会では2011年に2度、全日本でも08年と10年の2度対戦しているが、すべて杉田が勝っている。

左が斉藤貴史で右が杉田祐一
杉田と戦った斉藤は、地元石川県を中心とした有志からの“草の根”の支援を受けながら選手活動を続けている選手。
「全日本もフューチャーズも大事な試合の一つ」と斉藤が話すのは、スポンサーを獲得するためのハングリーさゆえのもの。全日本での活躍も彼にとってはプレッシャーよりもチャンスとしてとらえているようで、この日の序盤も、全日本の準決勝で相手が杉田という状況でもまったく怯む様子を見せないどころか、逆にのびのびとしたプレーで杉田を圧倒した。
「正直、危ない試合だった。やられていてもおかしくない状態だった」と杉田も振り返ってる。第1セットの斉藤はミスらしいミスがまったくなく、早いテンポのストロークで杉田に反撃の糸口を与えず、2度杉田のサービスを破って先行した。
第2セットに入ってややペースは落としたものの、それでも押していたのは斉藤だった。
4-4で迎えた杉田のサービスゲームで2本のブレークポイントを握った斉藤だったが、ここを取りきれなかったのが分岐点となった。
「そこでようやく隙を突けるようになった」と杉田は言う。チャンスを逃した斉藤の集中力がダウンしたのを見逃さず、杉田が畳み掛けて試合をひっくり返した。
続いてセンターコートに登場したのは第2シードの内山と江原。実績では内山の方が上だが、1年半前からスイスに拠点を移した江原も急成長中。攻守のバランスが整い始めた江原は、もともとの勝負強さにさらに磨きをかけていた。
内山の武器は強力なサービスから一気に決めにいけるスピードだが、江原のリターンが深く返り続けたことで、内山は思い通りの流れをつくれず、ラリーでも必死でボールに食いついた江原からなかなかポイントが奪えず、内山はさらに厳しいところを狙わされていく。
内山は第1セットを落としたことで、よりリスクを取らざるをえなくなってしまった。第2セットは5-3と先にリードしながら、第9ゲーム以降の3ゲームを江原に連取されて追いつかれてしまう。タイブレークは何とか内山が取ったものの、試合の大きな流れを引き寄せるまでには至らず、第3セットもどちらが取るかわからないというムードだった。
「第3セット、2-3の場面のサービスのときにピキッときた」。序盤から激しいフットワークを繰り出し続けた江原の第3セットは、左足にケイレンを抱えながらのプレーになったが、「そのあと、リラックスして攻守のメリハリをつけられた」と江原は言い、「ケイレンが逆によかった」と続けた。
思うように走れなくなった分だけ、普段ならつないでしまうような場面でも思いきった攻撃ができるようになり、ポイントを積み重ねる試合は少なくないが、この試合の江原もそうだった。
体力勝負の様相となった試合は、最後は内山も足に異常が出始める。江原が勝ったのは、ほんのわずかに江原の方が気持ちで勝ったから、としか言いようがない結末だった。試合時間は2時間38分。今大会屈指のロングマッチだった。
決勝は杉田と江原の対決になった。「意識しすぎずに臨みたい。杉田さんは格上だし、いい試合をしたこともあるが、自分のできるプレーを出して、気合いを入れてプレーしたい」と江原。内山の強打をしのぎきり、大きく振られても手を伸ばし、ボールを返し続けて勝利を手にしたのが江原だ。
杉田といえども簡単な勝利を期待していい相手ではない。決勝にふさわしい激闘を期待しよう。